コラム
column
column
高齢化社会になり、高齢者の認知症が増加してきています。平成25年には認知症と診断された方は約38万人で高齢者の約7人に1人でしたが、約10年後の平成37年には認知症患者が約60万人に増え、高齢者の5人に1人が認知症になると予想されています。だれもが認知症になったり、認知症の家族を抱えていたりするような時代が来ようとしています。
認知症と一言でいってもさまざまな病態がありますが、なかでも最も多いのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)は脳の委縮によりおこり、進行性の認知機能低下をきたす病気です。初期には軽いもの忘れから始まることが多く、徐々に記憶障害や判断力の低下が進行していきます(中核症状)。記憶障害や判断力の低下が進むと、日時や自分のいる場所が分からなくなったり、自分の年齢や身近な人の顔が分からなくなるようなことも出てきます。また、それと同時に、人によって徘徊や興奮、幻覚といった激しい症状が見られたり、逆に意欲の低下やうつ症状が見られることもあります(周辺症状)。
外来では、「最近物忘れがひどくなった。認知症ではないか?」と心配される方がよくいらっしゃいます。確かに、認知症の初期の状態は軽いもの忘れから始まることが多く、正しく診断することが難しいことが多いのです。でも、高齢になると認知症でなくとも忘れっぽくなることが多くなります。では、加齢によるもの忘れとアルツハイマー型認知症によるもの忘れは何が違うのでしょうか?
まず、加齢によるもの忘れは体験の一部を忘れるが、認知症は体験全体を忘れてしまうというのが大きな違いです。また、加齢によるもの忘れはヒントを与えられれば思い出せますが、認知症は思い出せません。例えば、旅行をした後で、何というホテルに泊まったのか忘れるのが加齢によるもの忘れ、旅行に行ったことそのものを忘れてしまうのが認知症です。また、病院で検査の予約をしていた場合、予約日時をうっかりわすれてしまうのが加齢によるもの忘れ、検査の予約そのものを忘れてしまい、病院から連絡を受けても「そんな検査を予約した覚えはない」となるのが認知症です。さらに、認知症では今いる場所や時間、季節など加齢によるもの忘れではまず忘れないようなことまで忘れてしまい、日常生活に様々な支障をきたしてしまいます。合理的な判断も難しくなるため、物忘れがひどくなったことを認識することもできなくなってしまい、家族に指摘されても「そんなことはない」と反論することが多いようです。
もちろん、こういった症状には個人差が大きく一概には判断が難しいのですが、自分で「物忘れがひどくなった」と心配されている方は、ほとんどの場合、加齢によるもの忘れであることが多いのです。一方、認知症の発症は自分では気づきにくいため、家族など身近な人が「おかしい」と感じて受診にいたることが多いようです。もし自分や家族が認知症かもしれないと感じたら、まずはかかりつけの医療機関で相談してみましょう。